妻のMさんが見かねて夫にささやいた。「パパ、もういいんじゃない?二十年住んだのだし、この子たちのいいようにしてあげたら?」そのとき、Tさんがぽつりとホンネを漏らしたのである。「たしかにそうかもしれないなあ。オレの命はせいぜいあと二十年だが、娘たちは後五十年暮らすかもしれない。この家はなかなかいい材を使っているんだけどなあ。座敷の梁なんか、オレが自分で植林地まで行って探してきたんだよ」。思いがけない父の言葉に、娘さんは驚いた。
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聞けば、梁ばかりでなく階段の踏み板も、Tさんがサクラ材の木目を一枚一枚見ながら自分で選んだものだという。私は思わず身を乗り出した。「それはすばらしい話ですねえ。思い入れがあるのは当然ですよ。どうです?まずは柱や梁がどんな状態になっているか調べてみませんか。壊すかどうかを決めるのは、それからでも遅くない」。私はさっそく押し入れの天井を外して、尾根裏をのぞいてみた。するとどうだろう。
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